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県当局は、9月12日、当時北安曇地方事務所林務課に在籍していた担当職員を中心に損害賠償請求を行うため、県監査委員に具体的な請求額の積算を委ねることとした。
本件事案の起きた背景は、木材価格の低迷等により、長らく採算性が悪化した状態が続き、生業としての経営が厳しい状態にある林業全体の問題であるとも考えられる。その結果、日本中の森林で整備が進まず、森林の持つ国土保全機能等が低下し、近年は自然災害の発生や野生鳥獣問題も深刻となった。このことから林野庁では、季節性が強く、適期に作業を実施する必要があることや、実施前に精度の高い計画を立てることが困難であることなどを踏まえ、ほかの補助事業ではあまり例のない事業の完了後に事業主体が補助金の交付申請を行う「実績補助方式」とした。このことにより森林整備事業が取り組みやすくなった一方で、大北森林組合を始め、県内外でも不適正受給が発生してしまっている。
補助金は国民の貴重な税金が元であり、その補助事業の申請は、そもそもが性善説により成り立っているため、審査等に当たっては少数の公務員で対応しているのが実態である。しかしながら今回、事業主体が事業の仕組みを悪用したことにより、補助事業全体に対する信用にも少なからず影響している。。
今回の事件は、県職員が検査を適正に行っていれば、このような不正受給は行われなかったとして厳しく問われている。当時年間200件以上の補助事業を数人の職員で短期間で検査、対応せざるをえない状況にあった。特に現地調査においては、全国有数の豪雪地である大北地域の除雪がされていない山間地の現場に行くこと自体、現実的に相当困難であったことが想像できる。にもかかわらず、年度内に補助金を交付しなければならない状況にあったことも事実であり、事件の背景は制度上の問題でもある。
当該職員等は適正な検査を行わなかったこと、そして、結果として事業主体の不正が見抜けなかったことについて、深く反省し、公務員として退職するまで影響を被る停職などの懲戒処分による社会的、経済的制裁も受けている。
地方公務員は採用時に日本国憲法に則り、公平・中立で国民の利益となるため、誠意を持って働くことを宣誓している。県の調査をはじめ、数ヶ月に及ぶ厳しい県警や検察庁の捜査でも職員個人の横領や森林組合からの見返りはなかったことも明らかになっており、職員が自らの私利私欲のために行ったことでは決してない。公務員として少しでも大北地域を発展させたいという思いで職務を全うし業務を行ってきた。
また、今回の件に関しては担当者が自らの判断や単独で行ったものではなく、上司の決裁を受け、組織として行ったものである。2009年(平成21年)度住民監査請求監査に基づく、「会計検査院からの指摘等に伴う国庫補助金等の返還に関する件」について、県監査委員は職員個々への損害賠償請求を行わなかった。しかしながら、この当時の判断を覆し、今回のように末端の担当者が重い責務を負うこととなれば、今後、上司との関係など組織の否定にもつながり、職員の士気は大幅に低下することは火を見るよりも明らかである。ひいては残念ながら県民サービスの低下につながることも十分に懸念される。
さらに昨今、ブラック企業、ブラックバイトが社会問題となっている。これは会社に不利益なことに対し従業員は故意でなくとも、過失があれば損害賠償責任を負わされていることである。実例として、飲食店のアルバイト学生が長時間労働の中、手が滑り皿を割ってしまったことに対し、アルバイト代から弁償させられたり、不当にただ働きを強いられたりしている問題である。
全国的にも、今回のような過失に対する担当者への賠償請求はほとんど事例がないことから、公務職場で行われれば、やがて民間職場、特に非正規労働者へ大きく影響することも、考慮する必要がある。
以上のことから、今回のように組織で行っていた業務に対しては、様々な影響を考慮し末端の担当者に重大な賠償責任を負わすべきではない。県当局は末端の労働者が安心して働けるよう、職員への損害賠償請求を回避することを期待する。
2017年9月12日
(写真はテレビ取材を受ける、左から湯本県職労委員長、細尾地公労議長、村山自治労長野県本部委員長)